Photo © Koji Fujii

「スキ」の配分
名古屋はどこもかしこも緻密な街だという印象がある。
碁盤目状に整然と整備された道路に敷地ブロック、そこに建ついかにも効率の良さそうなオフィスビル群。それらカッチリとしたハードの背後には、それに見合ったキッチリとした封建的な統治機構が透けて見えるようでさえある。
名古屋駅から敷地のある名城公園までタクシーで向かう途中、窓外を眺めながらそんなことを考えていた。

名古屋市主催のPFI事業のプロジェクトである。可能性を眠らせている公共用地を、期間を限って民間に貸し出すことで地代を得るとともに地域活性化を試みる、いわゆる公共資産の民間による利活用の事業だ。10年を貸与期限として定められていたため(途中20年に変更された)、永続的な建築物として考えることに意味はない。

そこでむしろ、一般的な公共建築のように永続性を保証するような、揺るぎない“完全性”を標榜するのではなく、積極的な意味での“中途半端さ”を求めるべきではないかと考えた。中途半端とはいわば“スキ”である。完全なものは崇拝や尊敬の対象になるかもしれないが、手は出しづらい。逆にスキがあって未完成な存在であれば、幼い子供に手を貸したくなるように、市民の参与を誘うことになる。つまり「中途=プロセス」を市民と共有することで「育成型公共施設」となり、市民が主体となって街をマネージメントしていく穏やかな機運を、この場所に芽生えさせることができるのではないかと目論んだのである。

建築は、「大津通と公園の両側に賑わいを表出する道路境界に沿った配置」「平坦な名古屋の土地に都市の桟敷のような立体的な視点と関係性を与える」「観覧席ともなる大階段と商業施設で市民の広場を挟むL字型プラン」など、コミュニティを醸成する基本的な構成を押さえつつも、デザイン的には「軽鉄の下地が透けて見えてしまう木製の外壁」や「何か手を加えなければ間延びしてしまうような広大なテラス」、「端部が始末されていない人工木デッキ」、「工事途中で設置が棚上げされたメッシュルーフ(下地はあるのでいつでも取り付けられる)」等々、様々な中途でスキのある要素によって形成され、人々の参与を誘っている。

言ってみれば息の詰まるような効率的に完成された都市に、スキを与えたかったのだ。過度に生い茂り、都市の暗がりとなっていた公園の木々は適度にスキ採られることで、明るく皆が集える広場である「都市のスキマ」へと転換されたし、木製の外壁は樹木と同程度の空気と光を含むスキ=ピッチとなることで拒絶の記号である壁面を、許容を感じさせるスキのある相貌へと変化させている。

ここで試みたように、様々なレベルとスケールで「スキ」を配分していくことが、完成後の都市環境をリバブルにする上で重要だと考えている。

Photo © Koji Fujii
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Tonarino

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Location
愛知県名古屋市, Japan
Year
2017

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