軽井沢の住宅
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- 長野県軽井沢町, Japan
- Anno
- 2020
軽井沢に建つ3人家族のための小住宅である。コロナ禍以前、建主夫妻は子どもの教育環境をこの地に求め首都圏からの移住を決意した。ここで生きていくと腹を括ってつくられた、地に足ついた日常を生きるための家である。
敷地は別荘地から少し離れ、古くからの畑地に宅地が点在しているような場所にある。その一角が新たに宅地開発され、さながら小さなニュータウンといった趣の、軽井沢では比較的珍しい場所となっている。南北には住宅が建て込み、敷地西側で路地状通路に接道しているものの、残された東側に豊かな森と清らかな沢が広がっており、私たちは森に向かって開かれた住宅を構想した。
エントランス土間がそのまま階段の踊り場と連続し、半階上ると団らん室、降りると就寝室という構成だ。団らん室と接続するバルコニーは、手つかずの自然を志向する建主家族にとって最も重要な場所となった。森のなかに投げ出されたような軽やかさと、家のなかとひとつながりであることとを同時に感じられる空間である。加えて防水の確実性といった機能的側面を担保するためのしつらえとして、町場の民家によくみられるアノニマスな物干し台にヒントを求めた。下屋の上に乗るように建つプラットフォームは外観の独立性を保ちつつ、かつ防水層を必要としない。ここでは、1階屋根と2階バルコニー床との間に生じる段差を活用し、合板重複梁を十字形に配置する構造計画によってダイナミックな持出しを実現している。また、基礎の凍結深度分1階の床レベルを掘り下げることで、バルコニーと地表面との距離はぐっと縮まり、自然とのダイレクトな関係を構築できた。
6,370mm角のコンパクトな平面は1.5、ないし2層分の吹抜けがその多くを占める縦長断面の空間である。この高さを活かし、建主のアートコレクションを展示するスペースを確保し、ランドリールームの上部には手動ウインチで上げ下げできる物干し竿を制作した。
外装材にはスレートやポリカーボネートの波板、手すりにはガス配管用の鉄管を用いるなど、住宅専用建材だけでつくりあげてしまうことを回避している。周囲の、あるいは、かつてそこに広がっていた農業施設のある風景とこの家とが地続きになっていて欲しいと考えた。
外部カーテンにはテキスタイルデザイナーの安東陽子さんたちとともに、軽井沢の厳しい気候に耐え凌ぎ得るスクリーンを開発した。半透明のフィルターを1枚介することで風景は抽象化され、逆に主体である私たちもまたその解像度を下げることになる。いつもとは違う顔をみせる自然を映し出し、周辺からの視線を曖昧にする作用は、断熱・遮音・防虫効果と相俟って、ここでの活動の幅を押し広げてくれているようだ。