Foto © Kenishi Suzuki
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SHIFT

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Sede
関東, Japan
Anno
2013

未来に構える
都心から在来線で40分程の距離にあるこの地域は、東京を中心とした郊外開発の最外縁部である。緑地と農地からなる市街化調整区域が市街化区域へと転換されることで宅地化されつつあり、その風景は日々目まぐるしく変化している。都市として落ち着いた恒常状態へと収束するまでには、まだ10年(あるいはそれ以上)はかかるだろう。

遷移状態に特有の不調和や混乱は避けがたいが、だからといって収束するまでの短くない期間、耐えて暮らせというのも当たらない。遷移状態が常態化しているのはこの国の現実なのだから、短期的な解決を超えて、現状から未来へと切り結ぶような建築の形式はないかと考えた。

採用した建築的な操作は1つしかない。3m近い高低差のある斜面地形内に半ば埋もれた3層からなる直方体状のボリュームを、その短辺分だけシフトするというものだ。イタリックの「N」の様な形式は、将来にわたっても変わる事のない南側の里山へのビューを取り込み同時に大きなテラスを生み出しながら、今は駐車場や田畑として空地になってはいるが、近い将来、住宅が建て込んでくる事が予測される隣地からのオフセットを立体的にとる事で、将来的なプライバシーと採光を確保している。

未来の都市環境への「構え」として採用された形式は、単にパッシブな外部要因への応答としてだけではなく、自律的な空間展開をも生み出している。シフトによって発生した2層分の吹き抜け空間には、南側の居室群を内包するボリューム越しの自然光が、2階床や天井でバウンドしながら届くことで、そのボリュームによる隔たりと合わせて、騒然と発達する外部からの「奥性」を生み出し、住環境にケイブのような落ち着きを与えている。同時に「流動/滞留」の空間配分もまた、斜めにスラッシュする軸線によって規定され、幾何学上ちょうどくびれた部分が移動空間に、幅広な部分が滞留空間となり、直角に突き当たることのない動線がそれらを滑らかに接続することで、自然で変化のあるシークエンスが生活経験に仕込まれることにもなった。

プロジェクトの中で改めて気づいた事は、世界に「完成」などはない、という当たり前な事実だ。常に状況はシフトし続け、歪みも軋みも、消えることはない。しかし、だからといって「普遍なるもの」があり得ないと言う事もない。流れの中の砂州がなぜかその形状を保ち続けるように、時間を超えうる建築はあり得る。それはかつてのように、時間経過という要因を無視するのではなく、むしろ積極的に、その時間による「シフト」を認める事によって至る事のできる「新たな次元の普遍性」ではないかと、予感している。

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