帝塚山の家

大阪府, 日本
© Toshiyuki Yano
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建築家
小松隼人建築設計事務所
場所
大阪府, 日本
2022

【風道を生み出す南北の庭】

大阪市の閑静な住宅地に建つ住宅である。敷地は大きな区画が細分化され、次々と集合住宅や戸建て住宅が建ち並ぶ中での最後の一区画であった。道路側から見ると閉塞的な印象を持つ敷地は反転すると東方向は低層住宅が並び、空に向けての開放性がある。この密集地とも言える敷地において、緑に溢れ、光と風が体感できる空間を目指した。

まず敷地に風道を生み出したいと考えた。このたびの敷地面積であれば南側にゆとりある庭を配置できるが、ヴォリュームを周辺建物が密集した北側に押し込むことになる。風道をつくるためには敷地に余白をつくることであり、まず北に「光庭」を配置して諸室に光を取り込む計画とした。この光庭は季節によっては隣地の隙間から直射光が入るが、一日のほとんどが日陰となるため、それだけでは「光庭」とは言えない。しかし隣地建物の薄色外壁に当たる直射光が反射して間接光となり、北庭の植栽および内部の諸室に穏やかな光を取り込むといった、周辺の状況を活用しながら光庭としての機能を満たすこととした。
南道路側に対しては「外皮を持つ吹抜けテラス」を2階と3階に配置した。外皮とは外部からの視線を遮り日射量を調整するブリーズソレイユ(日射反射板)のことであり、東方向に傾けることで視線の開放性を確保しながら他方位からの視線を緩やかに遮り、西からの直射光を調整する。テラス上部は垂直に連続するブリーズソレイユをそのまま水平方向にも連続させることで、夏季の高い高度からの直射光を遮りながら光の屈折による柔らかな光を届け、空の移ろいも感じることができる。さらにその隙間に配置した植栽がそよぐことで、風が視覚化され涼感を感じることができ、通りを歩く人々は閉ざされていた外皮が徐々に開き、緑溢れる様子を望むことができる。この南北の庭に包まれた住宅は、内部の諸室も風道をつくるように配置し、外部に面する開口部や室内窓を南北に繋げていくことで、閉塞的な敷地であったことを忘れるほどの、光と風が行き交う豊かな住環境が生み出せた。

この住宅地はもともと区画にゆとりがある緑化率の高い地域であり、まだ相対的には多くの緑が残っているが今後も細分化が進んでいくことが予想できる。この街と住環境のためにも敷地内に余白をつくり、緑溢れる風景を継承してほしい。この住宅はその応えの一つとなったのではと考えている。

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