写真 © Akinobu Kawabe
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安曇野穂高の家

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場所
長野県安曇野市, 日本
2014

長野県のほぼ中央、松本盆地の北西に位置する安曇野は山々に囲まれた田園風景の広がる風光明媚な土地である。
敷地は安曇野の市街から少し離れた北アルプスの裾野に近い小高くひらけた場所で、西に穂高の山々、東にとうもろこし畑と遠景に安曇野の市街が見渡せる。この土地へ初めて訪れた際に、ふと、そこにある姿として緩やかな地形に沿うように、緩勾配の大屋根が地面近くに架かっている平屋の建物の姿が見えた気がした。
 周辺は長閑な田園風景だが、生活道路が近くを通り、また同時に隣地が分譲されたことからそれなりに人通りもある。そこで、人目を気にすることなく景色を堪能しながら暮らせる家を計画した。

建物は南北に細長い矩形で、地形なりに東が水下、西が水上側になるよう片流れの大屋根を架けた。内部は施主夫婦と同居する親の三人が家で仕事をしながらも穏やかな日常を送れるよう適度な距離感と小さな場のつながりを意識して設計を進めた。
日常の多くの時間を過ごす建物中央に配置した居間・食堂は、東西の横長窓を介して2つの風景を繋ぐがどちらも掃き出し窓にせず、それぞれの腰壁高さを調整することで、外部からは室内が見えすぎることなく、内部からは道路や人通りが切り取られ、まるで絵画のように風景のみを見渡すことができる場所とした。
代わって居間の脇の扉からテラスへ出ると視界はとうもろこし畑へ緩やかにつながり、その先の街の灯りや雄大な山並みを見ながら晩酌をするなど家族の憩いの場となる。居間の南側には夫婦各々の仕事場(アトリエ・書斎)を配置し、作業の手を止めて顔を上げるとそれぞれ東と西の風景が望める。2室の間に緩衝地帯として設けた読書コーナーは、窓のない小さな空間で造り付けの一人掛けソファに座り読書に没頭することのできる場所とした。
窓の位置や高さを調整することによりカーテンや障子によって閉じられる時間は少なくなり、街灯の少ない田園風景の夕暮れ時や荒涼とした冬景色の中、大らかな建物形状と相まって、道行く人から光の灯る温かな生活の雰囲気が感じられるような優しい佇まいの建物になってくれると嬉しい。

近年、永く保たれてきた安曇野らしい畑や田んぼの美しい風景も、宅地開発などによって少しずつ失われてきているように感じる。建築家の仕事はどうしても街の風景に影響を与えてしまうことは避けられないことではあるが、設計する建物そのものが次の風景の一部となることを忘れないでいたいと思う。

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