拳山荘
東京, 日本
- 位置
- 立川市, 東京, 日本
- 年份
- 2018
街とシームレスに繋げる公共空間
立川は長年東京のベッドタウンとして発展し、近年駅周辺は再開発によって近代的な街へと変貌をとげている。新市街を抜けると、再開発の影響からか、古い屋敷街に多くの集合住宅や駐車場が無秩序に混在する街並へと雰囲気が一変する。
拳山荘周辺も例外ではなく、賃貸集合住宅が供給過剰な状態だ。そこでこの賃貸集合住宅を建てる意味として、経済性の追求ではなく、本来人々が求める緑豊かな温かい風情をもつ居心地の良い公共空間にすべきだと考えた。
建ぺい率や容積率は最大化せず、地面を出来るだけ残し、2面接道するL型の敷地形状を活かして、建物の周囲に通路を複数通し、誰もが利用可能な公共空間である回遊型散策路として開放、シームレスに街と繋げることにした。
庭(散策路)は、石や三和土によって必ずしも歩きやすいとは言えない状態で、既存の大木や植栽によっても大きく蛇行し、偶然できた山道のようである。
各室は、庭への関わりが深くなれるようしたが、もはや "公共空間" である庭と適度なプライバシーを保つために、バルコニーを壁で囲ったり、1階を部分的にセットバックさせた。そのため建物は凸凹した外壁面と12の外階段が複雑に錯綜し、独立柱が内外のそこかしこに現れている。
竣工後、庭に入ろうとした子どもがいたが、母親に「ひとの家に入ってはだめ」と注意されている様子を見かけた。そのとき私は「走り抜けていいよ!」と心の中で叫んだ。
拳山荘で試みたのは、敷地を隔てる境界線を、建物と庭を渾然一体にすることで曖昧な輪郭線に変えて、建物と街を、公と私を柔らかく繋ぐことだ。
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